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ナイツェル/ヴェルツァー『兵士というもの』

書名: 『兵士というもの』(みすず書房
著者: ゼンケ・ナイツェル、ハラルト・ヴェルツァー
訳者: 小野寺拓也

 膨大な捕虜盗聴記録の分析によって人間観の更新を迫る労作。

 戦争中の兵士が残虐行為を思いとどまったり押しとどめたりすることは、現実的にどれだけ可能だろう。命令・任務・帰属意識・復讐心・恐怖心・マチスモなどがほぼすべてアクセルであり、場合によっては教育・報道・時代精神さえアクセルであるときに、個人はブレーキとしてまともに機能しうるだろうか。
 そういった疑問への答えを盗聴された会話から導きだし、兵士というものを丹念に見ていくことで、「人間性」「人間味」「人間的」「人間らしさ」のような言葉における「人間」とは違う、あるべき姿でもありたい姿でもない人間というものが見えてくる。